【弁護士が解説】納得いかない遺産分割協議をやり直せるか?│取り消し・無効

京都市中京区にある、相続に力を入れている「こうの法律事務所」です。

親や兄弟姉妹などが他界した場合、遺言がなければ遺産分割協議をして、誰が・なにを相続するか決めます。

兄に無理矢理協議書にサインさせられました。やり直せますか?

姉から「財産はこれだけ」と言われたのを信じて協議書にサインしましたが、実は遺産を隠していました。協議をやり直せますか?

遺産分割協議が成立した後に、こういった相談をされる方は少なくありません。

そこで今回は、騙されたり、脅された場合、無理矢理サインさせられた場合などに、一度成立した遺産分割協議をやり直せるのか解説します。

オンライン相談なら初回無料。中京区・上京区・下京区・左京区・右京区をはじめ京都市はもちろん、京都市外、京都府以外でもお気軽にご相談ください。

Contents

結論

  • 理屈上は、やり直せる場合があります
  • しかし、実際やり直すことは極めて難しいです
  • 遺産分割協議書にサインする前に、一度弁護士に相談することをオススメします

「一度成立したものをやり直すのは、とても難しい」ということを、ぜひ覚えておいてください

遺産分割協議をやり直せる場合

①相続人全員が同意している場合

相続人全員がやり直すことに同意している場合は、やり直せます。

ただ、そもそも強引に協議書へのサインを求めてきたり、財産を隠すような人が、すんなりやり直しに応じることはまずありません。

そこで弁護士に依頼して、弁護士からやり直しを求めることも考えられます。

ただ弁護士に頼んだからといって、やり直しを強制することはできず、あくまでも交渉ということになります。

②錯誤・詐欺・脅迫がある場合

民法に定められた事情がある場合には、遺産分割協議を取り消すことができます。

具体的には、ものすごく簡単に言うと次のとおりです。

錯誤(民法95条)

勘違いがあった場合

詐欺(民法96条)

騙された場合

脅迫(民法96条)

脅された場合

これらの場合は一方的に取り消せるので、他の相続人の同意は不要です。

ただ、話はそう簡単ではありません。

その理由は2つあります。

【取り消しが難しい理由①】あくまでも客観的に判断されるから

皆さんがいくら「勘違いがあった」「騙された」「脅された」と思っていても、客観的にそれが錯誤・詐欺・脅迫に当たると認められなければ取り消せません。

たとえば、「脅されたんです」と主張する方は多いです。

ところが具体的な状況をうかがうと、客観的には「脅された」とは言えない場合は多いです。

少々強く言われたくらいでは、到底脅迫には当たりません。

詐欺についても、

兄はいつも嘘ばかりつくんですよ

こういう風に仰る方も多いですが、今回の遺産分割協議において、どんな嘘をついて、その嘘がどう遺産分割協議に影響したのかといったことを客観的に考える必要があります。

その結果、詐欺とは言えない場合が多いです。

錯誤についても、そもそも勘違いがあったのか、また、その勘違いが重要なものなのかといった検証が必須です(ここでいう「重要」というのも客観的に考える必要があります)

錯誤・詐欺・脅迫に当たる場合は、かなり限られたケースです。皆さんが思っている何倍も難しいと思ってください

【取り消しが難しい理由②】証明が難しいから

錯誤・詐欺・脅迫を理由に取り消すことが難しいもう一つの理由は、立証のハードルです。

あえて極端な例を挙げますが、体を縛られて、包丁を突きつけられて、「遺産分割協議書にサインしないと命はないぞ」と言われてサインしたとします。

さすがにこれは脅迫に当たるといえるでしょう。

しかし、そういうことがあったと証明するのは難しいです。

録音や録画をしていたとか、開放された直後に警察に駆け込んだとか、体をしばられた痕を写真に残していたとか、怪我の治療のために病院へ行ったとか、そういった証拠を積み重ねる必要があります。

ここまで極端じゃないとしても、たとえば兄が弟に対して、「財産は100万円だけだ。葬式代とお墓代で全部消える。遺産分割協議書がないと預金を引き出せないから、全部俺が相続するという協議書にサインしてくれ」と言ったとします。

ところが実際には、財産(遺産)は3000万円あったとしましょう。

これだけ見れば、弟は兄に騙されていますが、兄は騙したなんて認めないでしょう。

それどころか、「財産は100万円だけだなんて言っていない。弟が、『兄さんは親父の面倒を看てくれたから全部もらってくれ』と言ってきたから全部もらったんだ」などと主張するかもしれません。

そうなると、騙されたという証明は非常に難しいです。

このように、法律の世界では「証明できるかどうか」ということが極めて重要です。

しかも、「これさえあれば証明できる」という場合は少なく、多くの場合は様々な証拠を積み重ねていくことになります。

そもそも遺産分割協議が無効な場合

ここまでは、一旦成立した協議をやり直す場合でしたが、

  • 相続人全員が協議に参加していない場合
  • 判断能力のない人が、成年後見人等を付けないまま協議に参加した場合

こういった場合は、そもそも協議は無効です。

協議書にサインする前にご相談ください

ここまで解説してきたとおり、一旦成立した遺産分割協議をやり直すのは、極めて難しいです。

また仮にやり直すとしても、すでに行った登記をどうするのか、すでに支払った相続税をどうするのかといった問題も絡んできます。

法律は弱者の見方じゃないんですか

そう仰る方も少なくありませんが、簡単にやり直しを認めていたら、社会は大混乱します。

ですから「大丈夫だろう」と楽観的に思わず、サインする前に一度弁護士に相談することをオススメします。

その時点で問題点に気づけたら、サインせずに協議を続けることは可能です。

相談した結果「問題ない」と分かれば安心してサインできますから、後悔せずに済みます。

一方、サインしてしまってからだと、まずやり直しはできないことを覚えておいてください。

オンライン相談なら初回無料。中京区・上京区・下京区・左京区・右京区をはじめ京都市はもちろん、京都市外、京都府以外でもお気軽にご相談ください。

まとめ

騙されたり、脅された場合、無理矢理サインさせられた場合などに、一度成立した遺産分割協議をやり直せるのか解説しました。やり直しは極めて難しいので、サインする前に弁護士に相談することをオススメします。

執筆者

弁護士 河野 佑宜のアバター 弁護士 河野 佑宜 こうの法律事務所 代表弁護士

2007年に弁護士登録し、2015年に「こうの法律事務所」を開設。
民事・刑事問わず幅広く取り扱う弁護士として活動。
2021年度 京都弁護士会 副会長を務めたほか、京都弁護士会の複数の委員会で委員長・副委員長を務める。

Contents