こんにちは、京都市中京区の「こうの法律事務所」です。
「AIに強い弁護士」を目指し、AIを活用しながら法的トラブルの予防・解決に取り組んでいます。
ChatGPT(チャットジーピーティー)やGemini(ジェミニ)を始めとした生成AIの導入で、生産性が向上している企業が増えているようです。
たとえば、これまで10人でなんとか回していた仕事が、AIのおかげで1/3や半分で済む場合も十分考えられます。
社長AIのおかげで人手が余ったので、何人か辞めてもらおうと思っています。
担当する仕事がなくなるのですから、解雇してもいいですよね?



ちょっと待ってください。解雇は社員の生活基盤を奪うものですから、法的に厳しく規制されています。
特に今回は社員に落ち度がなく、会社都合の解雇ですから、余計にハードルが高いです。
安易に解雇すると大きなトラブルになるので、ご注意ください。
結論
「社員を解雇(リストラ)することで人件費を大幅に減らし、利益率を上げたい」
その気持ち自体はよくわかります。
しかしAIによって業務効率化ができ、人手が余ってしまったことを理由に解雇することは、法律上「整理解雇」に当たります。
そして整理解雇が有効と認められるためには、極めて厳しい条件をクリアする必要があります。
そもそも解雇が法的に認められる場合とは?
日本の法律では、労働者は手厚く保護されています。
解雇については、労働契約法16条に「解雇権濫用法理」が定められています。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
そして解雇には、3種類あります。
- 普通解雇:従業員の能力不足や勤務態度の不良などを理由とする解雇
- 懲戒解雇:従業員が重大な規律違反(横領など)を犯した場合のペナルティとしての解雇
- 整理解雇:会社の経営不振などを理由に、人員を削減するために行われる解雇
今回テーマとなっている「AI導入によって不要になった社員を解雇したい」というケースは、社員に落ち度がある普通解雇・懲戒解雇ではなく、落ち度がない「整理解雇」に該当します。
社員に落ち度がない以上、3つの解雇類型の中で最も有効性が厳しく判断されます。



「整理解雇が認められる要件は非常に厳しい」
まず、この認識を持つことがスタートです。
整理解雇が有効な場合(4要件)
整理解雇は、絶対に認められないわけではありません。
裁判所は、整理解雇が有効かどうか判断するにあたり、以下の4つの要素を総合的に考慮します。
これは法律に直接書いてあるわけではなく、裁判例の蓄積によって、現在一般的に用いられる判断基準です。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避努力義務の履行
- 人選の合理性
- 手続の相当性
① 人員削減の必要性
「会社が維持・存続するために、人員削減が本当に必要か?」ということです。
これは、経営者が「必要」と思っているだけでは足りません。あくまでも客観的に必要性が認められるかどうか厳しく見られます。
また、たとえ必要性があっても、それが低ければこの要件は満たしません。
つまり、単に「AIを導入すれば利益が上がるから」「AIを導入したら人手が余ったから」といった理由では、人員削減の必要性が高いとは言いにくいです。
一方、会社の経営が危機的な状況にある、あるいは、その事業部門を縮小・閉鎖しなければ会社全体の存続が危うく、AI導入によってなんとか乗り切るといった高度な経営上の必要性があれば、この要件を満たしやすくなります(それでもハードルは非常に高いです)
② 解雇回避努力義務の履行
解雇は労働者の生活基盤を奪う以上、最終手段です。経営者の考えがどうであれ、法律はそうなっています。
ですから、「解雇を避けるために、会社として最大限の努力をした」ということが求められます。
これは、4つの中でも特に重視される傾向にあります。
代表例としては、以下のような手段を尽くさなければなりません。
- 配置転換・出向
解雇対象の従業員を、他の部署や関連会社で受け入れる可能性を検討したか - 希望退職者の募集
退職金を上乗せするなど、有利な条件を提示して自発的に退職する従業員を募ったか - コスト削減の努力
役員報酬の削減、新規採用の停止など、会社全体でコスト削減の努力をしたか
上記は一例ですから、上記の手段を講じれば必ずOKというわけでも、講じなければ絶対NGとういわけでもありません。
AI導入の場合、AI関連業務に従事するための再教育・リスキリングの機会提供なども、解雇回避努力として考慮される可能性があります。
しかもこの義務を尽くしたかどうかは、裁判所から見てどうかということです。
経営者が「やれることは全てやった!」と思っていても、裁判所がそのとおり認めてくれるかどうかは別問題です。
③ 人選の合理性
「解雇する社員の選び方が、客観的に見て合理的である」ということも求められます。
「AIに代替された業務を担当していたから」という理由だけで特定の社員を選ぶことは、必ずしも合理的とは言えません。
なぜなら、他の社員よりもその社員を解雇する必要性がある、という客観的な理由が不足しているからです。
勤務成績、経験、技能、扶養家族の有無、年齢、勤続年数などを総合的に考慮し、客観的で合理的な基準に基づいて慎重に人選を行う必要があります。
④ 手続の相当性
「解雇に至るまでの手続きが、丁寧で妥当なものだった」ということも求められます。
会社は、人員整理の必要性やその内容、時期、規模、人選の基準などについて、労働組合や社員に対して十分に説明し、誠実に協議する義務があります。
AI導入による解雇の場合は、社員に対してAI導入の目的、それによる業務の変化、人員削減の必要性などを丁寧に説明し、理解と協力を求める姿勢が重要です。
従業員に対して何の説明もなく、ある日突然「AIを導入して人手が余ったので解雇します」といった通告をすることは、手続きの相当性を欠くものとして、解雇が無効となる一因になります。
まとめ:経営者・労働者双方へのアドバイス
AI導入を理由とする解雇は「整理解雇」として、上記4つの厳しい要件を総合的に考慮して、その有効性が判断されます。
経営者の方へ
AI導入に伴う人員整理をお考えの場合は、AI導入で余った人員を解雇する前に、AIを使って更に利益を上げ、解雇が不要となるような経営努力も求められます。
また、社員に対して何らかの対応が必要な場合も、解雇は最終手段であると肝に銘じ、それ以外の選択肢(配置転換、リスキリング、希望退職の募集など)を徹底的に検討してください。
当事務所でも、解雇を含めた人事労務について多くのご相談をいただいております。
その中で、法律の考え方と経営者の考え方にギャップがある場合は少なくありません。
特に解雇については、その有効性を争われることで大きな損失につながりかねません。
そうなる前に、弁護士に相談することがオススメです。
労働者の方へ
もし会社から「AIを導入したから」といった理由で解雇を言い渡された場合、それが法的に有効とは限りません。
その場で安易に書類にサインしたり、争っても無駄だと諦めず、弁護士や労働組合などに相談することをお勧めします。
AIと共存する時代において、労務問題も新たな局面を迎えています。
ご不安な点があれば、当事務所にお気軽にご相談ください。







