【弁護士が解説】AIを使った画像・文章・音楽などの生成で気をつけるべき権利とは?著作権・肖像権・名誉毀損など

こんにちは、京都市中京区の「こうの法律事務所」です。「AIに強い弁護士」を目指し、AIを活用しながら法的トラブルの予防・解決に取り組んでいます。

生成AIの発達は凄まじく、ChatGPT (チャットジーピーティー)、Gemini (ジェミニ) 、Claude(クロード)、Midjourney (ミッドジャーニー)、Stable Diffusion (ステーブルディフュージョン)などを使えば、文章だけでなく画像・動画・音楽などを、誰でも簡単に作れてしまいます。

その結果、うっかり権利侵害してしまうケースも多いです。

そこで今回は、生成AIの利用によって起こりやすい権利侵害を解説します。

弁護士 河野

「法律を知りませんでした」という弁解は通用しませんし、故意(わざと)じゃなくても、過失(うっかり)でも責任を負う場合が多いので注意してください

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うっかり他人の作品とそっくりに?【著作権侵害のリスク】

著作権とは?

写真・イラスト・動画・文章・音楽といった「著作物」には、それを創作した著作者に色んな権利(著作権)があります。著作権は、作品が生まれた瞬間に自動的に発生するため、特許庁などへの登録などは必要ありません。

そして他人の著作物を無断でコピーしたり、インターネットで公開したり、勝手に改変(アレンジ)したりすることは、原則として著作権侵害にあたります。

AI利用で特に注意すべき点

生成AIでは、以下2つのパターンで著作権侵害が問題となり得ます。

  1. 意図的に似せるケース
    特定のキャラクターや作品に似せるような指示(プロンプト)を出して生成させた場合、元の作品への「依拠性」(元ネタにしたこと)が明確なため、著作権侵害となる可能性が高いです。
  2. 偶然似てしまうケース
    AIはネット上の膨大な情報を学習しているため、ユーザーにそのつもりがなくても、生成物が既存の著作物と酷似(類似性)してしまうことがあります。
    この場合、生成物が法的に著作権侵害にあたるかどうかご自身で判断するのは困難です。

安全に利用するための対策

最も安全な対策は、クリーンなデータで学習した、著作権侵害のリスクが低いと明言しているサービスを選ぶことです。 例えば、アドビ社の「Adobe Firefly」は、下記のように宣言しています。

著作権や知的財産権を侵害するコンテンツを生成することがないよう開発され、安心して商用利用できるよう設計されています (引用:https://www.adobe.com/jp/ai/overview/ethics.html

特にビジネスで利用する場合は、こうした信頼性の高いサービスを選ぶことが重要です。

実在の人物にそっくり?【肖像権侵害のリスク】

肖像権とは?

誰もが持つ、無断で自分の顔や姿を撮影・公表されない権利です。

AI利用で特に注意すべき点

たとえAIが生成した架空の人物であっても、特定の個人を容易に識別できるほど似ていれば、その人の肖像権を侵害したと判断されるリスクがあります。

有名人の顔を勝手に使うと?【パブリシティ権侵害】

パブリシティ権とは?

著名人が持つ、名前や姿が持つ経済的価値(顧客吸引力)を独占する権利です。

肖像権がすべての人に認められるのに対し、パブリシティ権は、その名前や姿に商品の売上を伸ばすような影響力がある著名人などに認められます。

AI利用で特に注意すべき点

例えば、有名人に酷似した画像をAIで生成し、それを自社製品の広告やPR投稿に利用した場合、その人の「顧客吸引力」にタダ乗りしたとして、パブリシティ権侵害にあたる可能性が高いです。

AIが出力した嘘でトラブルに?【名誉毀損・侮辱のリスク】

名誉毀損と侮辱の違い

  • 名誉毀損
    具体的な事実を示して、人の社会的評価を下げること(例:「〇〇社のA氏は前科がある」)
    ここでの「事実」とは、真実か嘘かは問いません。
  • 侮辱
    事実を示さずに、抽象的な言葉で人を侮辱すること(例:「A氏は無能だ」)

AI利用で特に注意すべき点

AIは時として、事実無根の情報(ハルシネーション)をもっともらしく生成します。

例えば、AIに「競合のB社の評判は?」と尋ね、AIが生成した「B社は過去に粉飾決算をしていた」といった嘘の情報を、そのまま自社のブログやSNSで公開すれば、B社の社会的評価を不当に下げたとして、名誉毀損に該当する可能性があります。

仮にその情報が真実であったとしても、公共の利益に関わるなどの正当な理由がなければ、名誉毀損は成立し得ますので注意が必要です。

ロゴや商品名がそっくり?【商標権侵害のリスク】

商標権とは?

商品やサービスの「目印」であるロゴマークやネーミングを独占的に使用できる権利です。

これは特許庁に登録することで発生する強力な権利です。

「著作権」が創作と同時に自然発生するのに対し、「商標権」は登録が必要な点が大きな違いです。

AI利用で特に注意すべき点

例えば、AIに「企業のロゴを生成して」と指示したところ、既存の有名企業のロゴとそっくりなデザインが生成されることがあります。

これを自社の商品やサービスのロゴとして使用してしまうと、たとえ偶然似てしまっただけであっても、商標権侵害に問われる可能性があります。

特に、ロゴデザインやサービス名をAIで作成する際には、生成後に特許情報プラットフォームなどで類似の商標が登録されていないか、必ず確認するプロセスが必要です。

有名ブランドの真似はNG?【不正競争防止法違反のリスク】

不正競争防止法とは?

簡単に言うと、事業者の間の公正な競争を守るための法律です。

他人のブランドイメージや信用にタダ乗り(フリーライド)したり、営業秘密を盗んだりするような「アンフェアな競争行為」を取り締まります。

AI利用で特に注意すべき点

この法律で特に問題となりやすいのが、「周知な商品等表示の混同惹起行為」です。

世の中に広く知られている(周知な)商品名、ロゴ、キャラクターデザインなどを真似して、消費者に「あの有名ブランドの系列店かな?」といった混同を生じさせる行為を禁止するものです。

例えば、商標登録はされていないが、SNSで大人気のキャラクターがいるとします。

そのキャラクターにそっくりな画像をAIで生成し、自社商品のパッケージに使用する。

このような場合、たとえ商標権を侵害していなくても、消費者が元の人気キャラクターの商品と勘違いしてしまうため、不正競争防止法違反となる可能性が高いです。

先ほどのパブリシティ権と似ていますが、パブリシティ権は「個人の経済的価値(顧客吸引力)」を守るもので、不正競争防止法は「事業者の営業上の信用や公正な競争秩序」を守るものとイメージしてください。

たとえば「スターバックスフード」という名前で営業したら、あの「スターバックスコーヒー」の新業態だと思いますよね。これが不正競争防止法違反です。

まとめ

以上のとおり、生成AIには様々な権利侵害のリスクがあります。

とはいえ、使い方次第で有益なツールであることは間違いありません。

たとえば包丁でも車でも、危険性を分かった上で使うことで有益なツールになりますよね。

生成AIも同じで、リスクを知った上で使うことが大事です。

当事務所では、法律相談を受け付けております。紹介は不要ですから、お気軽にご相談ください。

執筆者

弁護士 河野 佑宜のアバター 弁護士 河野 佑宜 こうの法律事務所 代表弁護士

2007年に弁護士登録し、2015年に「こうの法律事務所」を開設。
民事・刑事問わず幅広く取り扱う弁護士として活動。
2021年度 京都弁護士会 副会長を務めたほか、京都弁護士会の複数の委員会で委員長・副委員長を務める。

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